前回に続いてこれまでの報告要旨を紹介していきます。
今回は4名。前回は数理的な創作理論と折り図の発表紹介でした。今回はそれとは別の種類ということで、まずは発表の中でも最も多い、個人の創作事例を扱ったものを一気に3つ紹介します。
原 司 「折り紙という作意(フィクション)に潜む/宿る”概念”」 |
「見立て」とは折り紙において変形させた紙の中から見出だす/される、印象さらにいえばその抽象・観念化である。この「見立て」が折り紙の中で成立するのは、折り紙自体が実在の模倣・模写ではなくフィクションだからである。そのフィクションを形成する過程で「作意」が介入する。この「作意」こそが「見立て」の本体であると筆者は仮定した。 また、この「見立て」は様々なコンテクストを含む。実在の”ある対象”に対して抱く印象は個々人間で差異があるからだ。さらにそのコンテクストは地域的な差異や折り手法による差異などに多分な影響を受ける。 筆者は、これらの差異を比較する上で重要な「比較出来得る差異」を「漢字の文字折り」の中から抽出し、考察した。 |
堀口直人「西行寺幽々子&八雲紫」製作失敗録 ――折紙創作における解釈と構想の考察、あるいはただの失恋話――」 |
本論は、2008~10年に論者が制作した「桜下待故人(西行寺幽々子&八雲紫)」(参考画像:http://www.flickr.com/photos/sakamata53/sets/72157624687896228/)の創作過程を、当時のメモや試作等から辿り、それを考察する。とりわけ、これまで折紙の創作過程論においてはあまり注目されてこなかった、対象の解釈と作品の構想づくりに注目して論じることを目的とする。 今回取り上げる作品は、当時の論者の問題関心に基づき、ただキャラクタの外形を再現するのではなく、キャラクタの「二次解釈」を折ろうという構想のもと折られた。しかしその試みは失敗したと考えている。創作過程とは、事前に立てた構想と実際の折りを互いに変遷させつつ、すり合わせていく過程である。ところが本作品では折ろうとした「二次解釈」が、折り紙化する中で作品と乖離していった果てに、破綻が生まれた。 そうした解釈/折り紙を擦り合わせる過程の考察を通して、本作品での試みが示しうる可能性、及びその限界について述べる。 |
中村 楓「人物作品の創作法の考察」 |
昨年10月辺りから創作に着手した人物作品群を例にとり、それらの創作過程を紹介しながら人物造形の手順と設計作業と造形作業の相互関係を考察する。また、人物造形における手段としての蛇腹創作と22.5°創作の相違点を検討する。 |
原さんの発表は折り紙論の重要な概念である「見立て論」に関するもので、以前ブログで報告した14回の勉強会でも、彼は見立てについて論じていました。
内容としては原さんの見立てに対する考え方を述べた後、その実践例として彼が以前から取り組んでいる文字折り(漢字などを折ること)で心がけていることを述べました。「普段どのようなことを心がけて創作をしているか」というのは、他にも多くの方が発表しています。
残りの2つはより具体的な作品を取り上げ、「自分がどうやって創作をしているか」を解説したものと言えるでしょう。中村楓さんのはコンベンション中に行われたものです。手法の異なる自作品を取り上げて、それぞれ創作の考え方を比較しつつ検討していくものです。
一方の堀口さんのは解説する作品を一つに絞り、その時の考え方を解説したもので、より事例報告に近いものといえるでしょう。
これまでの6つから分かる通り、発表にはいくつかの系統があります。まとめると、
(1)折り紙論……折り紙とはなにか
(2)創作理論・技法研究……どうやって折り紙を創作しているか
(3)活動紹介……普段どのようなことを考えて折り紙を折っているか
(4)事例研究……この作品はどうやって折ったのか
(5)その他……折り紙の歴史・折り図・折り紙活動支援 etc…
その他というと広すぎるかもしれませんが、例としては前回紹介した萩原さんの折り図の発表のほか、宮本宙也さんのこのような発表もありました。
宮本 宙也 『「折り鶴の少女」についての学習』 |
「広島の原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子については、大体のかたは学校等で習ったことがあると思います。 像建設の経緯、またその後の折り鶴の普及についてはあまり知られていないと思ったので、今一度きちんと知っておこうというねらいのもと発表を行います。 |
次回はこの発表のスライドを紹介したいと思います。
もちろん一つの発表では上で分類した要素のうちいくつかが混じっているのが普通です。投稿論文の参考になれば幸いです。
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