活動の概要

我々の創作教科書は,(中略)「実際に創作するためにはどのような手段をとれば良いか」という事が学べるような形式・構成を考えている.学べる手段は様々用意し,折る対象へのアプローチが一通りでない事を学んでもらえるようにする.

――若手創作家勉強会研究ノートVol.1 「創作教科書作成宣言」より

 

 若手創作家勉強会は、発足当初に「折り紙創作の教科書」を作成することを活動の目標として掲げました。現在は活動規模の問題もあり、その作成が進んでいるとは正直言えません。

 しかしこれまでの活動、すなわちこのブログでご紹介してきた内容は、将来的な教科書作成の礎となることを狙ったものです。勉強会がどういった考えで活動し、どのような教科書を目指しているのかを知ってもらうために、以下の3つのカテゴリーを設けました。併せて、各カテゴリーの解説も簡単に載せておきます。

 我々の活動の狙いが少しでも広がり、次の新しい折り紙の動きにつながっていくことを願っています。

 創作力の向上

複雑な折り紙作品や折り紙の科学が発展する中で、「折り紙は幾何学的性質を持つ」「折り紙作品が展開図という構造を持つ」ことが少しずつ認知されようとしています。それに伴い、「折り紙作品は理論的に 設計 して作られる」という説明がされるのをよく聞くようになりました。しかしこれは半分間違っています。

現代の折り紙創作家が、様々な手法を組み合わせながら作品を生み出しているのは事実ですし、その手法の中には幾何学的理論に基づいたものがあるのも確かです。しかし紙とペンで折線パターンを製図するだけで、あるいはコンピューターで複雑な計算を解くだけで生まれる折り紙作品はごく僅かです。そのほとんどは、創作家が何枚も何枚も紙を折りながら、各々の経験的知見とすり合わせることで生まれます。しばしば「創作理論」と呼ばれるものは、そうした試行錯誤を低減するために先人がこれまで積み上げてきた道具なのです。そして経験的知見や「創作理論」は、多くは他の人の様々な作品を見、折ることで無意識的に体得していくものです。

勉強会では「折り紙しりとり」「パーツ折り」など、ゲーム形式での創作グループ演習を行い、折ることで培われる創作力の向上に発足時から努めてきました。これは同時に、どういう折りの経験を積めば、どういった創作力を高められるか探る試みでもあります。漫然と折るより、課題を持って折った方が効果が高いと思われるためです。また、限られた時間内での創作演習は、若手が一般的に不得手とし、「創作理論」の効果が薄い即興作品・シンプル系の折り紙作品の創作力向上に有効であると思われます。

将来的には、こうした活動で得られた知見を教科書の「演習課題」として活用していきたいと考えています。また、本ブログでもゲーム形式の創作演習についてルール等を解説をしていく予定です。折り紙愛好家の交流機会がいっそう増える中、こうしたゲームを通して楽しく創作に触れられるようになればと考えています。

知識共有・データ収集

先ほど、現代の折り紙創作家が様々な手法を組み合わせながら作品を生み出していると書きました。どの手法を用いるか、どういった順序で組み合わせるかは創作家ごと、あるいは折ろうとする作品ごとに違います。勉強会では、メンバーの活動報告や折り紙の文献紹介などを通して、こうした創作法のデータを収集する活動を行ってきました。

先述した通り、多くの創作家は手法の組み合わせを経験的・無意識的に行っています。各々の創作手法を発表し、データ化することは、自分自身を客観視し、気づきを促す効果もあります。自分と異なる手法を知ることで、創作の幅を広げることにも繋がるでしょう。

「集団創作」や「創作競作」といった取り組みの狙いの一つに、こうした他者の創作手法を知り各自の創作活動に活かすことがあります。また、書籍やネットで報告される創作レポートや創作に関連する考察を読み、メンバーで議論することは、各々の創作に対する考え方を振り返る機会にもなるでしょう。

創作手法の体系化

創作手法に関するデータを集めれば教科書になるわけではありません。様々ある創作手法・発想がどう組み合わされているかのパターンを考察し、体系化することが必要です。創作手法を体系化することで、以下のような効果が得られるのではないかと考えています。

  • 創作過程の典型的パターンを提示することで、創作初心者が創作に取り組みやすくなる。
  • 折りたい対象や創作上のこだわりと関連の深い創作手法・発想を提示することで、創作の助けとなる。
  • 創作時に発生した問題と関連する手法・発想を提示することで、創作時の問題解決の助けとなる。
  • 今まで試されたことが少ない手法・発想の組み合わせを検討することで、新しい作風を切り開く助けとなる。
  • 異なる手法に隠れた発想や活用法の類似性を探ることで、今までできなかったやり方で創作できるようになるヒントを提示する(例:ジャバラから角度系)
  • 異なる創作家・作品を創作過程から比較検討できるようにすることで、折り紙の批評を発展させる。

いくつかの個人報告において、こうした体系化のための議論がなされています。また集団創作や創作競作は、各自の創作法を比較検討することも行っており、体系化に関わる活動ともいえます。